結論:法令で一律の義務はないが、5つの根拠でBCPが求められている
医療法と医療法施行規則には、病院にBCP(業務継続計画)の策定を一律に求める条文はありません。「業務継続」「事業継続」という語も出てきません。
ただし病院のBCPは、次の5つの根拠で求められています。
- ①災害拠点病院の指定要件:災害対応のBCPと、それに基づく研修・訓練
- ②令和8年度改定で加わった主な施設基準:許可病床200床未満の病院の機能強化加算、在宅療養支援病院、救急外来医学管理料1・2(災害対応のBCP)。入院の電子的診療情報連携体制整備加算1(医療情報システムのBCP)
- ③立入検査(全病院):サイバー攻撃を想定したBCPの現物確認
- ④平成24年の局長通知:医療機関は業務継続計画の「作成に努められたい」
- ⑤医療計画の指針:災害時に拠点となる病院以外の病院も「整備を行うよう努めること」
「災害拠点病院以外は努力義務」という説明には、届け出る施設基準によってはBCPが要件になることと、サイバー攻撃を想定したBCPが立入検査で確認されることが抜けています。
災害拠点病院ではなく、BCPが要件の施設基準も届け出ていない病院では、災害対応のBCPは国の通知・指針で作成に努めるよう求められている段階です。
いつからかでいえば、災害拠点病院は2017年(平成29年)の指定要件の改正から(猶予は2019年3月まで)、施設基準は2026年6月1日からです(2026年3月31日に届出済みの機能強化加算・在宅療養支援病院は2027年5月31日まで猶予)。
病院のBCPとは:防災マニュアルとの違い
国の医療計画の指針は、BCPを「災害などの緊急時に低下する業務遂行能力(医療機関の場合は診療機能)について、その影響を最小限に抑え、早期復旧を可能とするための準備体制及び方策をまとめたもの」と説明しています。
災害拠点病院用の手引きは、災害急性期対応の章を「従来の災害対応マニュアルの本体部分(時系列対応、アクションカード)に相当する」としています。
BCPは、その対応に加えて、優先して続ける業務、必要な人・物・ライフライン、復旧までの手順をまとめたものです。
病院にBCPは義務か:5つの根拠と、それぞれの対象
①災害拠点病院:指定要件
平成29年3月31日の厚生労働省医政局長通知で、災害拠点病院の指定要件に「業務継続計画の整備」と「被災した状況を想定した研修及び訓練」の実施が加わりました。地域の医療機関や医療関係団体と定期的に訓練を行うことも求められています。
法令ではなく、都道府県が指定する際の要件です。災害拠点病院は令和8年4月1日現在で790病院あります。国が示した令和8年度の立入検査の方針では、災害拠点病院の立入検査の際にBCPの整備や研修の実施状況を聴取するとされています。
災害拠点精神科病院の指定要件や、周産期母子医療センターの国の指針にも、BCPの策定が入っています。
②診療報酬の施設基準
令和8年度の診療報酬改定で、一部の施設基準の要件になりました。次の章で詳しく説明します。
③立入検査(全病院):サイバー攻撃を想定したBCP
医療法施行規則は、病院の管理者に「サイバーセキュリティを確保するために必要な措置」を義務づけています。BCPは、その取組を確かめるチェックリストの項目の1つです。
厚生労働省のチェックリストには「サイバー攻撃の想定を含む事業継続計画(BCP)を策定している」という項目があり、立入検査で現物が確認されます。立入検査は、原則としてすべての病院を対象に年1回行われます。
チェックリストの背景は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」で解説しています。
④平成24年の局長通知
平成24年3月21日の医政局長通知(都道府県などあて)は、「医療機関は自ら被災することを想定して災害対策マニュアルを作成するとともに業務継続計画の作成に努められたい」としています。
⑤医療計画の指針
都道府県が作る医療計画の指針(令和8年6月10日最終改正)は、災害時に拠点となる病院(災害拠点病院・災害拠点精神科病院)以外の病院に求める事項として、BCPの「整備を行うよう努めること」と、BCPに基づく研修・訓練を挙げています。
国は医療計画の指標の例として、災害拠点病院以外の病院のBCP策定率を重点指標にしています。
令和8年度診療報酬改定で、病院に求められるBCP
機能強化加算(許可病床200床未満の病院)
機能強化加算の対象は、診療所と許可病床200床未満の病院です。災害拠点病院以外の医療機関向けの手引き等を参考に、BCPを策定し、必要な措置を講じ、定期的に見直すことが要件になりました。
2026年3月31日に届出済みの病院は、2027年5月31日まではこの要件を満たしているとみなされます。
在宅療養支援病院
在宅医療の「BCP策定の手引き」等を参考に、在宅医療を受ける患者への医療を続けるためのBCPを策定することが要件です。猶予は機能強化加算と同じで、2027年6月以降も届け出る場合は改めて届出が必要です。
在宅療養支援病院の届出によって地域包括ケア病棟の要件を満たしている病院は、在宅療養支援病院の要件としてBCPが必要になります。
救急外来医学管理料1・2
対象は二次・三次救急医療機関等で、救急搬送の件数(1は年1,500件以上、2は年800件以上など)の要件があります。「BCPを策定し、当該BCPに基づいた災害訓練を年1回以上実施していること」が要件で、BCPについての猶予はありません。
届出の様式には、直近1年間の災害訓練の実施回数を書く欄があります。救急告示病院であることだけが要件の救急外来医学管理料3には、BCPの要件はありません。
入院の電子的診療情報連携体制整備加算1
医療情報システムが使えないときの対応と復旧までの業務継続計画を策定し、医療情報システム安全管理責任者の主導で、年1回程度の訓練・演習を行うことが要件です。
災害対応のBCPとは別の、医療情報システムのBCPです。外来の同名の加算や加算2には、BCPの要件はありません。
このほか、医科と歯科を併設する病院が歯科外来診療感染対策加算を届け出る場合は、歯科外来部門の感染症のBCPが要件です。
国の疑義解釈(その12)は、機能強化加算と在宅療養支援病院のBCPについて、日本医師会の「診療所用」ひな形を参考にしてよいとしたうえで、作成した計画を職員に適切に周知するよう求めています。
診療所の場合は「クリニックのBCPは義務化された?」で解説しています。
病院のBCPはどのくらい策定されているか
災害対応のBCP:平成30年12月1日時点の国の調査では、回答した7,294病院のうちBCPを策定済みは25.0%でした。
災害拠点病院・救命救急センター・周産期母子医療センター以外の病院(回答6,530病院)では20.1%です。災害拠点病院は、別の調査(令和元年10月)で740病院すべてが策定済みでした。令和の全国値は、公表を確認できませんでした。
サイバー攻撃を想定したBCP:令和8年3月末時点の国の調査では、回答した5,736病院(対象8,102病院、回答率70.8%)のうち74.6%が策定済みで、20〜199床では70.5%でした。
策定した病院のうち、そのBCPの訓練まで行ったのは43.1%(20〜199床は35.4%)です。
手引き・ひな形・サンプルの選び方
厚生労働省の手引きは3系統あります。
- 災害拠点病院用:手引きと、仮想の病院を例にしたBCP(改訂第2版)
- 災害拠点病院以外の医療機関用:手引き・指針・チェックリスト
- 在宅医療を提供する入院医療機関編:BCP策定の手引き(第3版、2024年5月)と、テンプレート、シミュレーション訓練のワークシート
選び方の目安は次のとおりです。
- 災害拠点病院は、災害拠点病院用
- 200床未満で機能強化加算を届け出る病院は、施設基準の文言にある災害拠点病院以外の医療機関用
- 在宅療養支援病院は、施設基準の「BCP策定の手引き」と同じ専門家委員会がまとめた入院医療機関編
- 救急外来医学管理料1・2は参考資料の指定がないため、自院に合う手引きを選ぶ
- どれにも当たらない病院は、災害拠点病院以外の医療機関用から始める
機能強化加算と在宅療養支援病院の施設基準は、どちらも「等を参考に」としており、特定の手引きでなければならないわけではありません。両方を届け出る病院は、外来・入院の患者への医療と、在宅医療を受ける患者への医療の両方を続ける内容になっているかを確かめます。
都道府県も手引きやサンプルを公開しています。静岡県は文書のイメージとアクションカードの様式例、東京都は災害拠点病院・災害拠点連携病院・一般医療機関の3種類の文書サンプル、大阪府は救急告示病院向けのサンプルを公開しています。
東北大学病院や福岡徳洲会病院のように、自院のBCPやアクションカードを公開している病院もあります。
サイバー攻撃を想定したBCPには、厚生労働省の「医療情報システム部門等におけるBCPのひな形」があります。
背景は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」で解説しています。
病院BCPに書くことと、作り方の流れ
入院医療機関編の手引きは、目的と体制づくり、リスクの評価、初期対応、優先業務の分析、対応策、文書化、訓練と見直し、地域との連携の8つのステップで進めます。
災害拠点病院以外の医療機関用のチェックリストには、指揮命令の体制、電気・水・燃料などのライフライン、医薬品・物品、職員の参集基準と呼び出し、情報の共有(広域災害救急医療情報システム=EMIS)、入院患者を避難させる判断基準などの確認項目が並んでいます。
アクションカード
部署ごと・個人ごとに、発災直後に行う優先業務をカードにまとめておきます。入院医療機関編には、職員の安否確認と参集の状況把握を担当するカードの例が載っています。
感染症・浸水・サイバーは別章か別マニュアルに
災害拠点病院用の手引きは大地震を想定しており、感染症のアウトブレイクなどは別に章立てするか、別のマニュアルにするとよいとしています。
国の検討会の資料も、災害対応のBCPと感染症対応のBCPでは前提が異なるとしています。令和8年度の施設基準の通知・告示で感染症のBCPを求めているのは、歯科外来診療感染対策加算だけです。東京都は水害対策を含めたBCPの作成を求めています。
職員の参集・安否確認・周知を決めておく
参集の基準
災害拠点病院用の仮想病院のBCP例では、病院のある地域で震度6弱以上のとき、病院に連絡することなく参集することを原則としています。自院の立地や職員の住まいに合わせて決めます。
安否確認で決めておくこと
入院医療機関編は、安否確認で決めておくこととして、安否を登録する方法、連絡が取れない人の確認方法、対象者の範囲(パート・派遣など)、家族への情報提供、確認するときに得る情報の5つを挙げています。
東京都のガイドラインは、診療時間内と時間外・休日に分けて書くよう求めています。
災害拠点病院用の例は、余裕がない場合は主要な職員以外の安否確認は落ち着いてから行い、安否確認システムが動いていれば活用するとしています。
災害拠点病院以外の手引きも、院外の職員の安否確認は初動期には優先度が下がるとしたうえで、BCPの実行に必要な主要な職員には携帯メール等ですぐ連絡がとれる体制を求めています。
通信が使えない前提も入れる
入院医療機関編には、訓練で「通信機器が使えない状況」と言われ、電話やSNSが使える前提でしか考えていなかったと気づいた受講者の声が載っています。
災害用伝言ダイヤル(171)など、複数の手段を決めておきます。
周知
疑義解釈は、作成した計画を職員に適切に周知するよう求めています。災害拠点病院用の手引きも、計画は職員全体に共有され、理解されることが必要としています。
病院のBCP訓練:求められる回数と、部分訓練から始める方法
BCPは作って終わりではありません。国の研修資料は、訓練と見直しを繰り返して実効性を高めることを、業務継続マネジメント(BCM)としています。
要件・要請・目安の違い
- 要件になっているもの:災害拠点病院(BCPに基づく研修・訓練と、地域との定期的な訓練)、救急外来医学管理料1・2(BCPに基づく災害訓練を年1回以上)、入院の電子的診療情報連携体制整備加算1(医療情報システムのBCPに基づく訓練・演習を年1回程度)
- 要件ではないが求められているもの:医療計画の指針(災害時に拠点となる病院以外の病院に、BCPに基づく研修・訓練)
- 目安:災害拠点病院以外の医療機関用のチェックリストに「年に1回以上の災害訓練を実施していますか?」という点検項目
入院の電子的診療情報連携体制整備加算1の訓練・演習は、診療を止めずに行ってよいとされています。機能強化加算と在宅療養支援病院の施設基準には、訓練の定めはありません。
部分訓練から始める
令和6年度の国の研修資料は、重点部分の訓練を個別に行い、慣れてきたら組み合わせて総合訓練につなげる方法を挙げています。
例として「通信連絡訓練」「停電時対応訓練」「夜間想定(人員不足時)訓練」などがあります。大まかな想定をもとに、時間を追って起きることと自分の行動を予測し、課題を書き出す机上訓練(状況予測型)も紹介されています。
よくある質問
クリニックのBCPとは何が違いますか?
病院では、入院患者の安全確保、病棟の避難、救急の受け入れ、地域の中での役割が加わります。診療所の要件やひな形は「クリニックのBCPは義務化された?」をご覧ください。
200床未満の中小病院は、何から始めればいいですか?
まず、届け出ている施設基準にBCPの要件があるかを確かめます。次に合う手引きを選び、参集と安否確認の方法を決め、通信連絡訓練などの部分訓練から始めます。国のBCP策定研修の資料も公開されています。
BCPを作らないと、罰則や減算はありますか?
BCPを作っていないこと自体への罰則は、医療法・医療法施行規則にはありません。BCPが要件の施設基準は、要件を満たさなければ届け出られず、算定できません。
猶予のある機能強化加算・在宅療養支援病院は、2027年6月1日以降も続けるなら改めて届け出ます。
BCPが無いことを理由に減算する仕組みは、施設基準の通知・告示には見当たりません。サイバー攻撃を想定したBCPは、立入検査でチェックリストとともに現物が確認されます。
併設の介護事業所にもBCPは必要ですか?
併設の介護サービスには、介護の運営基準で、感染症と非常災害の両方のBCPの策定、職員への周知、研修・訓練の定期的な実施が定められています。ただし病院が行う居宅療養管理指導は、2027年3月31日まで努力義務です。
参考にした公的資料
- 厚生労働省「医療施設の災害対応のための事業継続計画(BCP)」(災害拠点病院用・災害拠点病院以外の手引き、研修資料)
- 厚生労働省「在宅医療を提供する入院医療機関編-BCP策定の手引き」(第3版、2024年5月。掲載ページ)
- 厚生労働省「災害拠点病院指定要件の一部改正について」(平成29年3月31日 医政発0331第33号)、「災害拠点病院一覧」(令和8年4月1日現在)
- 厚生労働省「災害時における医療体制の充実強化について」(平成24年3月21日 医政発0321第2号)
- 厚生労働省「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」(医療計画の指針、令和8年6月10日最終改正)
- 厚生労働省「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(令和8年3月5日)
- 厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その12)」(令和8年9月2日)
- 厚生労働省「医療機関・薬局におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」「同マニュアル」(令和8年度版)
- 厚生労働省「令和8年度の医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査の実施について」
- 厚生労働省「病院の業務継続計画(BCP)の策定状況について」(令和元年5月)、「第21回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会 資料5」(令和2年8月。災害拠点病院の策定状況)、「病院における医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に係る調査」(令和8年5月)
この記事は、職員ポータル「ラクパス for Hospital」を運営する株式会社Central Medienceが、公的資料をもとに作成しました。
この記事で扱った機能
ラクパスの安否確認は、管理者が発報すると職員のスマホに全画面で表示され、最短2タップで回答できます。未回答の職員は色分けで一覧に出ます。
登録200名・10部署までのFREEプランで、発報・回答・一覧・訓練モードが使えます。病院では、職員数より先に部署数が上限に届くことがあります。FREEプランで過去の回答を見られるのは90日までです。
PROプランでは、気象庁の情報で施設の地域に震度5弱以上または特別警報が出たとき、管理者に開始を提案します(発報するかは管理者が判断します)。
訓練モードで試せるのは、安否確認の連絡と回答の流れです。BCPに基づく訓練で何を行うかは、各病院が計画に沿って決めます。大規模な災害では通信そのものが途絶する可能性があるため、災害用伝言ダイヤルなど複数の手段と併用してください。




