結論:重症度から伝え、受け手の言い直しで終える
看護師の申し送りは、勤務交代のときに、患者の状態や指示、次の勤務帯にお願いすることを伝える業務です。
1人ずつ、次の5つの段取りで伝えると、抜けを防ぎやすくなります。
- 重症度:安定・要注意・不安定のどれか
- 要約:どんな患者で、今どういう状態か
- やること:何を、いつまでに、誰が
- もしもの時:こうなったらこうする
- 受け手の言い直し:受け手が要約し、質問し、やることを言い直す
口頭で伝えるのは、変化と、やることと、記録に書きにくいことに絞ります。記録で読めることは読み上げません。
後半では「申し送りは廃止されたのか」という疑問に制度の記載から答え、病院が短縮・廃止を進めるときに決めておくことを紹介します。
申し送りとは:目的と、口頭で伝えるもの・記録で渡すもの
申し送りとは、看護の情報共有の1つで、交代制の勤務で、前の勤務者が次の勤務者に、患者の状態や注意点、続けてほしいことを伝えることです。目的は、勤務が替わってもケアと安全を途切れさせないことです。
「引き継ぎ」とほぼ同じ意味で、病棟では勤務交代の場面を「申し送り」と呼ぶことが多くあります。「申し送る」という動詞も辞書に載っています。
口頭と記録の分担
看護と介護がともに働く病棟の報告(2008年)は、記録が残されている中での口頭の申し送りは「二重の情報伝達」になると指摘しています。
介護施設での申し送りの伝え方や例文は「介護の申し送りとは?」で解説しています。
一方で、看護業務の実態を調べた厚生労働科学研究(平成30年度)は、申し送りではカルテに収めることのない周辺の情報や、文章では表しきれない情報も共有されていると考察しています。
記録に書けることは記録で渡し、変化・やること・書きにくいことを口頭で伝える。これが、短くて抜けの少ない申し送りの土台です。
同じ研究では、47病院50病棟の看護師955名のタイムスタディで、看護師間の申し送りは1日の看護業務量の5番目に多い業務でした。残業時間中の業務としても、1人平均11.3分で3番目でした。
申し送りで伝える項目(入院中の患者/新規入院の患者)
項目は施設のワークシートや電子カルテの画面に合わせます。ここでは、よく使われる項目を整理します。
入院中の患者
変化があったことと、期限のあることを中心に伝えます。
- バイタルサイン・症状の変化:数値と時刻で
- 処置・与薬:実施したこと、まだのこと
- ライン・ドレーン類:点滴・カテーテル・ドレーンの状態
- 医師の指示の変更:何が、いつから変わったか
- 期限のある指示:絶飲食・休薬など、いつまでか
- 検査・手術の予定:時刻と準備
- 食事・排泄の変化:量や回数の変化
- IC(説明と同意)・家族の要望:誰に何を説明したか
- 注意すること:転倒・転落のおそれなど
- 急変時の対応方針:確認できているか
新規入院の患者
基本の情報を一通り伝えます。
- 氏名・年齢・病名・入院の目的:病名は確定か検査中か
- アレルギー・既往歴・感染症の有無
- ADL(日常生活動作)と移動の方法:自立・見守り・介助
- 指示の内容:安静度・食事・検査など
- 家族への連絡の状況
個人情報への配慮
看護師には守秘義務があり、保健師助産師看護師法は、業務上知り得た秘密を漏らした場合の罰則(6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)を定めています。
大部屋の前や廊下で申し送るときは、話す場所と声の大きさに気を配ります。
申し送りの順番:重症度→要約→やること→もしもの時→受け手の言い直し
患者を回る順番
病棟で決まった順番(部屋順・チーム順など)があれば、それに従います。
決まっていない場合は、状態が不安定な患者と、時刻の決まったやることがある患者から伝えると、受け手が急ぐことを先に把握できます。
1人の患者の中で話す順番
冒頭の5つの段取りは、米国の医療研究・品質局(AHRQ)がチーム医療の研修プログラム(TeamSTEPPS)で紹介している申し送りの型「I-PASS」をもとにしています。
AHRQは、I-PASSを多くの組織で好まれている申し送りの型で、根拠のある選択肢の一例としています。最後に受け手が要約し、質問し、やることを言い直すところまでが型に含まれます。
要約の中の変化は、呼吸・循環・意識のように系統ごとに話すと聞き取りやすくなります。
SBAR・I-PASS・I-SBAR-Cの違いと、職場の型を優先する理由
SBAR(エスバー)は、状況・背景・評価・提案(依頼)の順に伝える型です。AHRQは、どんな会話にも使える枠組みで、とくに患者の状態が急に悪くなったときなど、すぐ対応が必要な会話に役立つとしています。
I-PASSは勤務交代の申し送りのための型で、受け手の言い直しまでを含みます。I-SBAR-Cは、SBARに名乗りと最後の確認を加えた形として使われています。
AHRQは、すべての組織に合う完璧な型は無いとしたうえで、施設で1つの標準を決め、全員が理解して使うことを勧めています。職場に決まった型があれば、それに従ってください。
そのまま使える申し送りテンプレートと例文、メモの取り方
メモ用テンプレート
1人の患者につき、次の欄を埋めてから申し送ります。
- 部屋・氏名:
- 重症度:安定/要注意/不安定
- 要約:病名・入院(術後)何日目・今の状態
- 変化:バイタル・症状(数値と時刻)
- ライン・ドレーン類:
- やること:何を・何時までに
- もしもの時:こうなったら、こうする
- 確認したこと:受け手が言い直した内容
以下の例文は、説明のための架空の例です。薬剤名や量は、施設の指示に置き換えてください。
例文①:入院中の患者(手術の翌日)
「305号室のAさん、安定しています。胃の手術の翌日です。ドレーンの排液に変化はありません。夜間は傷の痛みの訴えが2回あり、指示の痛み止めを0時と5時に使って、どちらも30分後に痛みは和らいでいます。発熱はなく、5時の体温は36.8℃です。点滴は1本目が今、残り半分です。」
「今日は10時から初めての歩行の予定なので、その前に痛みの確認をお願いします。ふらつきや息苦しさがあれば歩行を中止し、バイタルを測って医師へ報告してください。」
例文②:新規入院の患者
「310号室のBさん、要注意です。昨日の17時に入院しました。80代の男性で、肺炎の疑いで検査中です。アレルギーはありません。」
「歩行は見守りで、トイレまでは付き添いが必要です。今日は9時に採血、11時に胸のCTの予定です。家族への入院の連絡は済んでいて、今日の午後に娘さんが来られます。」
例文③:夜間に発熱した患者
「312号室のCさん、要注意です。2時に38.6℃の発熱があり、2時10分に当直の医師へ報告して、血液検査と解熱剤の使用の指示を受けました。2時半に採血と解熱剤を実施し、4時の再評価で37.9℃、脈拍・血圧・SpO2は発熱前と変わりありません。」
「採血の結果と今後の方針は、9時の回診で主治医に確認をお願いします。38℃を超えたら、主治医へ報告をお願いします。」
申し送りを受けるときのメモの取り方
受ける側も、テンプレートの欄に沿ってメモを取ると、聞き漏れに気づけます。
やることには時刻と担当を書き、分からない点には印を付けて、その場で質問します。最後に、やることを声に出して言い直します。
伝わる申し送りのコツと、注意されやすい言い方
伝わるコツ
- 結論から言う:「安定しています」「要注意です」を最初に
- 事実と自分の判断を分ける:「表情がうつろだった(事実)。疲れが出ていると思う(判断)」
- 数値で言う:「熱が高い」ではなく「38.6℃」
- まだやっていないことをはっきり言う:やり残しは最初に伝える
- 記録で読めることは読み上げない
注意されやすい言い方
先輩から注意されやすいのは、受け手が困る話し方です。
たとえば、出来事を時間の順に全部話す、事実と自分の感想が混ざる、数値が無い、聞かれたことに答えられない、やり残しがあいまい、といった話し方です。
受け手は、短い時間で何を急ぐべきかを判断しなければなりません。厳しく聞こえる指摘も、患者の安全と受け手の時間を守るためのものです。
申し送りを短くするために、自分でできること
送る前にテンプレートを埋めて、1人を1〜2行に絞ります。記録に書いたことは「記録をご確認ください」と伝えます。
変化の無い患者を「変化なし」と短く送ってよいかは、病棟のルールを確認しておきます。
受ける側のコツ
聞いた内容を要約して返し、分からないことはその場で聞きます。
日本医療機能評価機構は、口頭で指示や依頼を受けるときは、対象物を復唱して確認するよう呼びかけています。
申し送りは廃止されたのか? 廃止した病院のメリットとデメリット
国が申し送りを廃止したわけではありません。ただし、施設基準が口頭での実施を求めているわけでもありません。
入院基本料の施設基準が求めているのは、「勤務交代に際して申し送る必要のある事項等」を勤務帯ごとに記録することです。様式や名称は病院が決めてよいとされています。入院基本料の届出には「勤務体制及び申し送り時間」を添付します。
病院の報告にある「廃止」は、全患者を口頭で申し送るのをやめて、記録・ワークシート・カンファレンス・基準に当てはまる患者だけの短い申し送りに置き換えたものです。
岐阜県厚生連昭和病院は、ベッドサイドへ早く行けないことを課題に、1999年3月末に全病棟で申し送りを全面廃止しました。
メリット
倉敷リバーサイド病院の内科病棟(2015年)は、勤務者どうしの個別の申し送りをやめた後、以前より40分早くベッドサイドへ行けるようになりました。業務量の調査では、申し送りの割合が20%から15%に減っています。
日本看護協会の先進事例の報告にも、患者ごとの申し送りをやめて時間外勤務が減り、ベッドサイドのケアに時間を使えるようになったという応募施設の取り組みがあります。
デメリット
同じ倉敷の病棟では、スタッフ19名へのアンケートで、困った点として「患者の情報がわからない」という意見が69%を占めました。病棟は、ワークシートの記入基準と患者カンファレンスを加えて補っています。
日本看護協会のガイドラインは、申し送りの短縮・廃止を不安に思い、勤務前に出勤して情報を集める人が増える傾向があると注意しています。
ICUの研究では、申し送りの際に持続注射やカテーテル類の確認も行われ、ダブルチェックになっていたと報告されています。減らすときは、この確認をどこで行うかも決めておきます。
病院が申し送りを短縮・廃止するときに決めておく6つのこと
①口頭で送る基準と、段階的な進め方
倉敷の病棟は、リーダーに口頭で送るのを「急変した患者」「前日の入院患者で申し送りが必要なこと」「38度以上の発熱患者」「医師への情報提供や指示依頼が必要なこと」に限りました。
一度にやめる必要はありません。昭和病院は部分廃止から全面廃止へ進めました。2010年の学会報告の病院は、チーム申し送りを15分以内・5人以内と段階的に短くしてから廃止しています。
②記録・ワークシートの記入基準
申し送りが長くなる原因として、送られたことを全部次に送る、受け手が申し送りだけで情報を得ようとする、という点が複数の病院から報告されています。
何をワークシートに書くかの基準を決めます。昭和大学藤が丘病院の看護師らの論文では、正式な記録はあくまで看護記録であることを前提にワークシートを使っています。
③勤務の重なりと開始時刻
秋田県の並木クリニックは、日勤の始業を8時50分、夜勤の終了を9時にして、申し送りでの超過勤務がなくなるようにしました。
静岡県の菊川市立総合病院は、申し送りを30分遅らせ、5病棟のうち1病棟で始業前の残業が改善しました。
④前残業の対策
日本看護協会のガイドラインは、勤務時間前の出勤について事前に対策を立てておくよう求めています。
情報収集の時間を業務時間内に確保し、始業前の業務を減らした病院の取り組みも、日本看護協会の先進事例として報告されています。
⑤患者以外の業務連絡を申し送りから外す
日本看護協会のガイドラインは、主な情報を勤務の途中で伝える方法や、日勤帯に短いミーティングを設ける工夫を紹介しています。
さらに、物品の不具合や院内ルールの変更、勉強会の案内といった患者以外の業務連絡は、申し送りで読み上げず、文書や院内の連絡ツールで配る方法もあります。申し送りに出られない夜勤者や時短勤務の職員にも届きます。
職員ポータル「ラクパス」のお知らせ機能では、部署ごとに配信先を分けられ、BASICプラン以上では未読の職員を一覧で確認できます。
ただし、患者の申し送りの代わりにはなりません。既読は開いたことの記録で、理解の確認ではないため、大事な変更は対面でも確認します。
夜勤者に連絡が届かなかった例は「夜勤明けへの連絡漏れをなくす方法」で紹介しています。
⑥効果と安全の測り方
申し送りの時間、時間外勤務、ベッドサイドへ行けた時刻を、変える前と後で測ります。
昭和大学藤が丘病院の看護師らの論文(大学病院の整形外科病棟)では、タイムスケジュール表とワークシートを併用した改善の結果、夜勤1回あたりの夜勤明けの超過勤務が40分から5分に減りました。
移行期は、申し送りの漏れに関するヒヤリハットを集めます。朝倉医師会病院の取り組みでは、変更の途中でインシデントが2件起き、リーダーの気付きでアクシデントには至りませんでした。
報告の書き方は「インシデントレポートの書き方」を参考にしてください。
2010年の報告では、年2回の基準の読み合わせが定着につながったとされています。
ベッドサイド申し送りという選択肢
ベッドサイド申し送りは、患者のそばに行き、患者も交えて申し送る方法です。日本ではナースステーションで行う形が主流です。
群馬県の療養病棟で両方を経験した看護師・准看護師16名に聞いた研究では、「患者の状態を正確に把握できる」「個人情報が漏れる危険がある」の両方に、全員が「思う」「まあ思う」と答えました。1つの病棟の小さな調査です。
この研究は、大部屋で行う場合は、どこまで話してよいかを事前に患者や家族に確認する必要があるとしています。
よくある質問
申し送りは何分くらいかかっていますか?
全国一律の基準はありません。病院の報告では、倉敷の病棟で朝の申し送りがすべて終わるまで約50分かかっていた例や、平均約60分を30分以内に短縮した例があります。
看護師向けサイトの読者投票(2021年・2,751票)では「5〜10分」が最も多い結果でしたが、ウェブ上の投票で、条件はそろっていません。
勤務時間の前や後に申し送りをしたら、時間外労働になりますか?
日本看護協会のガイドラインは、申し送りを規定の勤務時間外に行っている場合は時間外労働の扱いになるとしています。具体的な扱いは、就業規則や労務の担当者に確認してください。
申し送りの短縮・廃止について、参考になる研究や文献はありますか?
昭和病院の「申し送り廃止までのプロセス」、倉敷リバーサイド病院の「朝の申し送りの廃止」、厚生労働省「いきいき働く医療機関サポートWeb」の事例で、手順と結果を確認できます。リンクは末尾の参考資料にあります。
申し送りをチャットやアプリで済ませてもいいですか?
患者の情報は、電子カルテや看護記録など、院内で定めた手段で扱ってください。
AHRQは、電子カルテなどを使った電子的な申し送りも、当事者どうしの直接の会話で補うと最も効果的になりうるとしています。患者以外の業務連絡は、連絡ツールで配るのに向いています。
新人で申し送りが苦手です。何から練習すればいいですか?
まずテンプレートを埋めることから始めます。次に、1人の患者を「重症度と要約」から1分で話す練習をします。先輩に聞いてもらい、伝わりにくかった点を教えてもらいます。
参考にした公的資料・研究
- 厚生労働省「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(令和8年3月5日 保医発0305第7号)
- 厚生労働科学研究「効率的な看護業務の推進に向けた実態調査研究」(平成30年度、研究代表者 坂本すが)
- 日本看護協会「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」(2013年)
- 日本看護協会「看護業務効率化先進事例収集・周知事業 報告書」(2020年)
- 厚生労働省 いきいき働く医療機関サポートWeb「並木クリニックの取組」「菊川市立総合病院の取組」
- 川畑恵理ほか「看護と介護が協働する場における申し送り廃止への取り組み」(日本ハンセン病学会雑誌、2008年)
- 多田賀津子ほか「ICUにおける指示・実施・申し送り過程の可視化とインシデント解析への応用」(医療情報学、2016年)
- 「申し送り短縮を試みて」(第54回日本農村医学会学術総会 抄録、2005年)
- 小瀧志保ほか「申し送り時間短縮・定着までのプロセス」(第59回日本農村医学会学術総会 抄録、2010年)
- 朝倉医師会病院「申し送り時間の短縮に向けた業務改善への取り組み」(2018年)
- 倉敷リバーサイド病院「朝の申し送りの廃止」(医療のTQM推進協議会、2016年)
- 大竹伸子ほか「申し送り廃止までのプロセス」(日本農村医学会雑誌、2000年)
- 古川浩次ほか「看護師の夜勤明け超過勤務に対する業務改善の効果」(昭和学士会誌、2021年)
- 田中美優ほか「ベッドサイド申し送りとナースステーション申し送りについての看護師の認識」(群馬保健学研究、2020年)
- AHRQ TeamSTEPPS「Tool: I-PASS」「Tool: SBAR」「Tool: Handoff」
- 日本医療機能評価機構「医療安全情報 No.102 口頭指示の解釈間違い」
この記事は、職員ポータル「ラクパス for Hospital」を運営する株式会社Central Medienceが、公的資料と研究をもとに作成しました。




