結論:起きたことを時間の順に、事実と推測を分けて書く
インシデントレポート(ヒヤリハット報告)は、起きたことを時間の順に、事実と推測を分けて、具体的に書きます。書く項目は次の7つです。
- 基本情報:日時・場所・部署・職種・経験年数
- 患者(利用者)の情報:年齢・性別・状態
- 出来事の内容:何が起きたか、時間の順に
- 発生時の対応と結果:誰に報告し、何をしたか
- 影響度レベル:施設の基準で判断(集める人が記入する様式もある)
- 原因:自分の行動と、その背景
- 再発防止策:手順・環境・道具をどう変えるか
書き方のルールは3つです。時間の順に具体的に書くこと、登場する人が誰か分かるように書くこと、本来の手順と実際に行ったことの違いをはっきり書くことです。
報告は、個人の責任を問うためではなく、原因を分析して再発を防ぐためのものです。公的な指針がそう明記している根拠は、インシデントとアクシデントの違いで紹介しています。
誰が・いつ・どうやって書くか
誰が書くか
JCHO(地域医療機能推進機構)の医療安全管理指針では、報告書は原則として、発生の直接の原因となった当事者または発見者が書き、書けない場合は関係者が代わりに書くとされています。
国立病院等向けに示された厚生省(現・厚生労働省)の指針でも、ヒヤリ・ハット事例は、その事例を体験した医療従事者が文書に書くこととされています。
いつまでに出すか
全国一律の提出期限はありません。院内の医療安全管理指針で決めた期限に従います。
例として、国立病院等向けに示された指針では、ヒヤリ・ハット体験報告を「翌日までに」報告することとされています。JCHOの指針は、発生した場合は「可及的速やかに上司に報告」としています。
どうやって書くか
JCHOの指針では、報告は各病院が指定した文書で行い、緊急の場合はまず口頭で報告してから、すみやかに文書にします。
また、厚生労働省の通知(医政発0331第72号)は、事故の報告は診療録や看護記録等に基づき作成することとしています。記憶だけで書かず、カルテや記録を確かめてから書きます。
インシデントレポートに書く7項目と、そのまま使える書式
冒頭の7項目は、国立病院・療養所向けの指針に示された報告様式と、日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業の報告項目をもとに整理したものです。実際の項目は施設の様式によって違うので、自院の様式を優先してください。
国立病院・療養所向けの様式例では、ヒヤリ・ハット体験報告に、経験年数や部署の配属年数、そのときの多忙度を書く欄があります。
出来事の内容のほか、「未然に防ぎ得たことであれば、どうすれば防止できましたか?」「この体験で得た教訓やアドバイスはありますか?」と問う欄も設けられています。
同じ様式の事務部版には、受付窓口・会計窓口・カルテ・電話対応といった分類があり、医療事務のヒヤリハットも最初から報告の対象として想定されています。
そのまま使える書式
施設に決まった様式がない場合は、次の項目を写して使えます(ラクパスの入力画面ではなく、一般的な書式の例です)。
- 報告日・報告者:
- 職種・経験年数・部署の配属年数:
- 発生日時:
- 発生場所:
- 患者(利用者):年齢/性別/当時の状態
- 出来事の内容(時間の順に):
- 本来の手順と、実際に行ったこと:
- 発見後の対応(誰に報告し、何をしたか):
- 患者(利用者)への影響と、その後の状態:
- 原因(自分の行動/その背景):
- 再発防止策(手順・環境・道具):
集める人の記入欄(医療安全管理者・医療安全推進担当者などが記入)
- 影響度レベル:
- システム改善の必要性:あり/なし(情報の共有のみ)
- 研修などへの活用:あり/なし
国立病院・療養所向けの様式例でも、書く人の欄とは別に、医療安全推進担当者がリスクの評価やシステム改善の必要性を書く欄が設けられています。書く人に評価まで求めないことで、出しやすい書式になります。
書き方のルール:事実を、時間の順に、具体的に
日本医療機能評価機構の報告要領は、事例の詳細を書くときの注意を5つ挙げています。全国の事業に報告するときの要領ですが、次の3つは院内のレポートにもそのまま役立ちます。
- 事例が起きる前の患者の状態、発生時の状況、発生後の状況や対応を、経時的かつ具体的に書く
- 文中に登場する人が、事例に関わった職員のうち誰に当たるのか分かるようにする
- 本来行うはずだった行為と実際に行われた行為が違う場合は、その違いがはっきり分かるように書く
よく紹介される5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)は、書き漏れの確認に使えます。ただし「なぜ」は推測が混じりやすいので、原因の欄に分けて書きます。
あわせて、見たこと・確かめたことと、推測や気持ちを分けて書きます。次の3組を見比べると違いが分かります。
- NG:慌てていたので確認を忘れた → OK:14時10分、ナースコール2件に対応した直後に配薬した。配薬前のリストバンドでの照合を行わなかった
- NG:患者さんが不穏で点滴を抜いた → OK:3時の巡視で、留置針が抜けてベッド上にあるのを発見した。本人は「かゆかった」と話した
- NG:今後は気をつける → OK:配薬前のリストバンド照合を、配薬カートに手順として貼り出す
場面別の例文8つ
以下はすべて、書き方を示すための架空の記載例です。対応の手順を示すものではありません。影響度レベルの例は患者・利用者に関わる例文にだけ付けており、判定は施設の基準によって変わります。
与薬:配薬前に別の患者の薬と気づいた
- 状況:8時、朝の内服薬を配薬カートから取り出した際、隣の部屋の同じ姓の患者の薬袋を手に取った
- 本来の手順と実際:本来は氏名と生年月日を薬袋とリストバンドで照合する。実際は部屋番号だけで取り出した
- 対応:ベッドサイドで患者に渡す前、リストバンドと照合した際に薬袋の生年月日が違うことに気づき、正しい薬に取り替えた。リーダー看護師に報告した
- 原因:部屋番号だけで判断した。同じ病棟に同じ姓の患者が2人いた
- 再発防止策:同じ姓の患者がいるときは薬袋に注意表示を付け、配薬カートの引き出しを離して置く。カートから取り出す時点で氏名と生年月日を確かめる
- レベルの例:患者には実施されていないため、レベル0に当たる例
転倒①:巡視中に、床に座っている患者を発見した
- NGの書き方:患者が勝手に起き上がって転倒した。注意不足だった
- OKの書き方:2時の巡視で、ベッド横の床に座っている患者を発見した。本人は「トイレに行こうとしたら、すべった」と話した。ナースコールは押されていなかった。頭部の打撲の有無を確認し、当直医に報告した
- ポイント:見ていない場面は「転倒した」と言い切らず、発見したときの状態と本人の話をそのまま書く
- レベルの例:外傷がなく、観察の強化も要らなかった場合はレベル1、観察を強めたり確認の検査をしたりした場合はレベル2に当たる例
転倒②:トイレ介助中にふらつき、膝をついた
- 状況:10時、歩行介助でトイレへ移動中、患者がふらつき、ゆっくり膝をついた
- 本来の手順と実際:本来は歩行器を使う指示だった。実際は「すぐ近くだから」と手引き歩行で介助した
- 対応:外傷がないことを確認し、車いすで移動した。担当医とリーダー看護師に報告し、観察を続けた
- 原因:指示と違う方法で介助した。歩行器がベッドから離れた場所に置かれていた
- 再発防止策:歩行器をベッドの手の届く位置に置く。移動方法をベッドサイドに掲示する
- レベルの例:外傷がなく、観察を強めたり確認の検査をしたりした場合はレベル2、それも不要だった場合はレベル1に当たる例
点滴:輸液ポンプの流量の設定が指示と違っていた
- 状況:14時の巡視で、維持輸液の輸液ポンプの流量が、指示の「40mL/時」ではなく「400mL/時」になっていることに気づいた
- 本来の手順と実際:本来は設定後に指示書と流量を照合する。実際は13時に輸液バッグを交換して流量を設定し直した際、照合しなかった
- 対応:ポンプを一時停止し、患者の状態を確認して医師に報告した。指示を受けて対応した
- 原因:交換時に別の対応を頼まれ、照合を後回しにした。数字の桁を目で追うだけの確認になっていた
- 再発防止策:設定後は、指示書と画面の数字を声に出して照合してから離れる
- レベルの例:患者に実施されているためレベル0には当たらない。患者への影響と行った処置によって判定する例
医療事務①:会計で、別の患者の領収書を渡しかけた
- 状況:11時、会計窓口で、前の患者の領収書と処方箋を次の患者に渡しかけた
- 本来の手順と実際:本来は氏名を名乗ってもらい、書類の氏名と照合して渡す。実際は呼び出した順番だけで渡そうとした
- 対応:患者が氏名の違いに気づき、渡す前に回収した。会計の責任者に報告した(個人情報に関わるため、院内の規程に沿った報告も行った)
- 原因:会計待ちが重なり、書類を重ねて置いていた
- 再発防止策:書類は患者ごとにクリアファイルに分け、渡すときに氏名を名乗ってもらう
医療事務②:予約変更の電話の伝言が、担当部署に伝わっていなかった
- 状況:前日の16時、受付で患者から検査の予約を変更したいとの電話を受けた。翌朝、患者が変更前の時刻に来院し、検査室に変更が伝わっていないことが分かった
- 本来の手順と実際:本来は予約システムを変更し、検査室にも連絡する。実際はメモを残しただけで、システムの変更と連絡を行わなかった
- 対応:検査室と調整し、患者に経緯を説明して検査の時刻を決め直した。受付の責任者に報告した
- 原因:電話の直後に窓口対応が重なり、メモのまま処理を忘れた。伝言を誰が処理したか確認する仕組みがなかった
- 再発防止策:電話で受けた変更はその場でシステムに入力し、伝言は処理した人が記録を残す
職員のけが:使用済みの注射針で指を刺した
- 状況:16時、採血後に注射針を廃棄容器へ捨てる際、針先が左手の指に刺さった
- 本来の手順と実際:本来は使用後すぐに、手元の廃棄容器へ捨てる。実際は廃棄容器が離れた場所にあり、針を持って移動した
- 対応:流水で傷口を洗い、すぐに上司に報告した。院内の手順に沿って受診した
- 原因:ベッドサイドに廃棄容器を持っていかなかった
- 再発防止策:採血のトレイに廃棄容器を必ずのせて、ベッドサイドへ持っていく
介護:刻み食の指示の利用者に、常食が配膳された
- 状況:12時、刻み食の指示がある利用者の席に常食が置かれていた。食べ始める前に、介助の職員が食札との照合で気づいた
- 本来の手順と実際:本来は配膳時に食札と食事形態を照合する。実際は配膳の担当者が席の位置だけで配った
- 対応:食べる前に刻み食に取り替えた。リーダーと看護職員に報告した
- 原因:本人の要因=当日は自分で、普段と違う席に座っていた。職員の要因=配膳の担当者が食札と照合しなかった。環境の要因=配膳の時間に人手が少なかった
- 再発防止策:席が変わったときは食札を持って移動する。配膳時は食札と食事形態を声に出して照合する
- レベルの例:利用者が口にする前に気づいたため、病院の分類に当てはめるとレベル0に当たる例
原因と再発防止策の書き方
日本医療機能評価機構の報告項目では、原因を2段階で分けています。
まず事例に関わった職員の要因(確認漏れ、手順の不遵守、コミュニケーション不足など)を挙げ、次にその背景(勤務の状況、環境や設備、管理の仕組み、患者側の要因など)を見ます。
原因を「不注意」で終わらせず、なぜその行動になったのかまで書くと、再発防止策が具体的になります(参考:ヒヤリハットの種別が「その他」ばかりになる理由)。
再発防止策は「気をつける」ではなく、手順・環境・道具を変える内容にします。
根本原因分析(RCA)などの分析の手法は、厚生労働省の業務指針で、医療安全管理者が必要に応じて使うものとして挙げられています(参考:医療安全管理者の業務内容)。
介護施設の場合
厚生労働省が示す介護保険施設等の事故報告の様式(介護保険最新情報Vol.1332、令和6年11月29日)は、市町村へ報告するときのものです。院内のヒヤリハットの書き方とは使う場面が違います。
院内のヒヤリハットにも役立つのは、この様式の原因分析の考え方です。原因を本人の要因、職員の要因、環境の要因の3つに分けて見ると、介助の方法だけでなく、環境や情報の伝わり方の問題にも気づきやすくなります。
市町村への報告が必要になる事故の範囲は、院内の区分と外部への報告の違いで説明しています。
集める側が整えること:書きやすい様式の3つの工夫
- 第1報で全部そろえなくてよい:院内でも、まず事実だけを早く出せる形にしておきます
- 書く欄と評価する欄を分ける:レベルの判定やシステム改善の要否は、集める側が書く欄にします
- 責めないことを明記する:国立病院・療養所向けの様式例には「この報告書を提出したことによって、不利益処分を受けることはありません」との注記があります。院内の様式や指針にも書いておきます
第1報についての根拠です。国立病院・療養所向けの指針の、地方厚生局などへ出す医療事故報告書の様式には、事故防止対策は検討分析のあとに別途報告してもよいとする注記があります。
日本医療機能評価機構の事業でも、医療事故の報告には背景・要因や再発防止策を入れない「仮報告」があり、ヒヤリ・ハット事例は報告後3か月間、追加の情報を登録できます。
出しにくさが件数に表れる例は、「PC待ちで帰れない」ヒヤリハット報告の現実と医療安全委員会の資料づくりで紹介しています。
ラクパスのヒヤリハット報告は、スマホから種別を選んで報告でき、報告本文は改ざんできない設計です。
よくある質問
何時間以内に提出すればいいですか?
全国一律の期限はありません。院内の医療安全管理指針で決めた期限に従ってください。緊急の場合は、まず口頭で上司に報告します。
アクシデントも同じ様式で書きますか?
施設によって違います。国立病院・療養所向けの指針では、ヒヤリ・ハット体験報告とは別に、医療事故報告書の様式が示されています。
患者さんや職員の名前は書きますか?
院内の様式では、施設の規程に従います。日本医療機能評価機構の全国の事業に報告するときは、個人名や医療機関名は入力しないこととされています。
提出したあとに分かったことはどうしますか?
追加の報告で足します。介護の事故報告の様式には「第1報」「第○報」「最終報告」を選ぶ欄があり、日本医療機能評価機構の事業でも、ヒヤリ・ハット事例は報告日から3か月間、追加の情報を登録できます。院内でも同じように、分かった時点で追加します。
看護実習中に起きたら、学生も書きますか?
実習先の施設と学校の取り決めに従ってください。まずは指導者にすぐ報告することが大切です。
参考にした公的資料
- 厚生労働省「国立病院・療養所における医療安全管理のための指針」(別添の報告様式を含む)
- 厚生省(現・厚生労働省)「リスクマネージメントマニュアル作成指針」(平成12年)
- 独立行政法人地域医療機能推進機構「医療安全管理指針」
- 厚生労働省「病院等における医療の安全を確保するための措置について」(医政発0331第72号、令和8年3月31日)
- 日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業「報告入力項目(ヒヤリ・ハット事例)」「報告要領(ヒヤリ・ハット事例)」「報告要領(医療事故情報)」
- 厚生労働省「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」
- 厚生労働省 介護保険最新情報Vol.1332「介護保険施設等における事故の報告様式等について」(令和6年11月29日。令和3年3月19日の旧通知はこの通知で廃止)
この記事は、職員ポータル「ラクパス for Hospital」を運営する株式会社Central Medienceが、公的資料をもとに作成しました。




