結論:選ぶ前に、Q&Aが挙げる7項目を事業者に確かめる
チャットで患者さんの情報をやり取りするなら、そのチャットも「医療情報システム」として安全性を評価する必要があります。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」第7.0版のQ&A(概説編Q10)がそう書いています。
同じQ&Aは、一般向けSNSを安易に使わず、利用前に7つの項目を確かめるよう求めています。事業者から開示資料を受け取り、リスクを評価したうえで採否を決める、という流れです。
私物のスマホで使う場合は、利用の条件や範囲、管理方法を院内の規程に入れ、台帳で管理する必要があります(企画管理編Q26)。
この記事では、病院で使われるチャットツールの種類、選ぶときに確かめる7項目、院内で決めておくルールを、原典をもとに整理します。ガイドライン全体の解説は医療情報システムの安全管理に関するガイドラインの解説にまとめています。
病院で使われるチャットツール(ビジネスチャット)の種類と、院内・院外の違い
この記事で扱うのは、職員同士の連絡に使うチャットです。患者さんからの問い合わせに自動で答えるチャットボットは別のものです。
主な5つの型
病院向けとして紹介されているチャットツールは、主な特徴で分けると次の5つの型があります。1つの製品が複数の型にまたがることもあるので、目安として見てください。
- 電子カルテ連携型:電子カルテの画面や患者情報と結び付けてやり取りする
- 医療機関向けのチャット専用型:病院の全職種が使うことを前提に、医療機関向けに作られたチャット
- PHS代替のスマホ一体型:院内のPHSをスマホに置き換え、通話とチャットを一台で使う
- 地域の多職種連携ツール(非公開型):在宅医療や介護の関係者と、院外でつながるためのツール
- 汎用ビジネスチャットの医療利用:一般企業向けのビジネスチャットを、病院で使う
比べるときは、①誰と使うか(院内の職員だけか、院外の関係者も入るか)、②何とつなぐか(電子カルテ、PHS・ナースコールなど)、③どこで動かすか(クラウドか、院内のサーバーか)の3点で見ると整理しやすくなります。
院内と院外は分けて考える
看護部の申し送りや夜勤への連絡など、院内の職員同士のやり取りと、他院や訪問看護ステーションとの院外のやり取りは、相手の所属が違います。
院外の関係者ともつながる場合は、そのツールが院外とのやり取りに対応しているか、院外の相手のアカウントを誰が管理するかを確かめてください。
個人LINE・私物スマホを業務連絡に使うと何が問題か
一般向けSNSは「安易に利用せず」
ガイドラインのQ&A(概説編Q10)は、SNSなどのWebサービスについて「利用可能ですが、医療情報システムとして安全性を評価する必要があります」と書いています。そのうえで「一般向けSNSを安易に利用せず」と続けます。
Q10は、参考資料として、一般社団法人保健医療福祉情報安全管理適合性評価協会(HISPRO)の「医療情報連携において、SNS を利用する際に気を付けるべき事項」を挙げています。
この資料は、誰でも使える公開型のSNSの例としてLINEなどを挙げ、患者さんや家族の機微な情報を連携させるツールとしては「不適切である」としています。医療情報連携の文脈で書かれた資料です。
同じ資料は、SNSを使う場合、患者さんや家族に、SNSを使うことや情報の利用目的、対策を説明または周知し、同意をもらうことが必要だとしています。職員への教育も求めています。
退職した職員の端末と、写真の写り込み
個人のLINEで業務の連絡をしていると、職員が退職したあとも、その人のスマホに会話が残ります。病院の側で消すことは難しくなります(退職した職員の個人スマホに、患者さんの情報が残り続けている)。
写真も同じです。ホワイトボードや書類を撮った写真に、患者さんの名前が写り込んでいることがあります(勤務連絡の写真に患者名が写り込む例)。
選ぶときに確かめる7項目(Q&A 概説編Q10)
Q10は、利用前に確かめる項目を「利用前に認証、アクセス制御、通信・保存時の暗号化、ログ、保存・削除、事故対応及び責任分界を確認してください」と挙げています。
以下は、この7項目をチャットツールに当てはめたときに、何を見ればよいかの例です(項目名はQ10の原文どおり、具体例はこの記事での整理です)。
①認証:ログインの方法を確かめます。パスワードだけか、二要素認証などを使えるか、職員一人ひとりに別のアカウントがあるか。
②アクセス制御:誰が何を見られるかを決められるかを確かめます。部署やグループごとに閲覧の範囲を分けられるか、退職や異動のときにすぐアカウントを止められるか。
③通信・保存時の暗号化:通信の経路と、サーバーに保存されたデータの両方が暗号化されているかを確かめます。
④ログ:誰がいつ何をしたかの記録が残るか、その記録を病院の側で見られるか、どの操作が記録の対象かを確かめます。
⑤保存・削除:やり取りがどこに、どれだけの期間保存されるか、不要になったデータをどう削除するか、解約したときにデータがどうなるかを確かめます。
⑥事故対応:情報漏えいなどが起きたとき、事業者がどう対応し、病院にどう知らせるかを確かめます。
⑦責任分界:事業者と病院のどちらが、どこまで責任を持つかを確かめます。契約書や利用規約に書かれているかを見てください。
事業者に求める資料
Q10は、7項目の確認とあわせて「MDS/SDSやサービス仕様適合開示書等を事業者から入手し、リスク評価の上で採否を決めます」と書いています。
MDS/SDSは、事業者が自社のセキュリティ対策を開示する書類です。カタログの「ガイドライン準拠」という一文だけで判断せず、これらの資料をもらって7項目を確かめてください。資料の違いはガイドラインの解説で説明しています。
なお、職員への届き方や契約条件など、運用面の比べ方は院内連絡ツールの比較の10項目で整理しています。この記事の7項目は、安全面の確認です。
導入前に決める院内ルール
ツールを選んだあとも、使い方は院内で決める必要があります。次の点は、導入の前に決めておくと、現場で迷いにくくなります。
送る情報と、使い分け
- 患者さんの情報をチャットで送ってよいか、送るならどこまでか
- 写真を撮ってよい場面と、送る前に確かめること
- 緊急の連絡は電話・PHS、それ以外はチャット、という使い分け
- 勤務時間外に通知を送ってよい時間帯と、時間外の緊急時の連絡手段
- 退職・異動のときに、誰がいつアカウントを止めるか
私物スマホを使う場合
私物のスマホで使わせるなら、ガイドラインは次のことを求めています。
- 利用を許す条件や利用範囲、管理方法を規程に含め、病院の端末と同じように台帳で管理する(企画管理編9章 遵守事項⑦、企画管理編Q26)
- 「管理されていない端末での BYOD は許可してはならない」(システム運用編8.5。BYODは私物端末の業務利用のこと)
8.5は、私物端末を認める場合の対策として、端末の設定変更の制限や、業務用の領域を分けることなどを挙げています。ツールが「インストール不要」というだけでは、この条件は満たせません。
院外で使う端末について、システム運用編Q14は、承認済みの端末に限るよう求めています。対策の例として、起動時の認証(必須とされています)、取り扱う情報を最小限にすること、利用を終えたらデータを削除することなどを挙げています。
ガイドライン自体に独立した罰則はありません。ただ、経営管理編Q3は、ガイドラインに反する状態は個人情報保護法や医療法などの義務を満たしていないと評価される可能性がある、としています。
費用の見方
チャットツールの費用を見比べるときは、次の点を確かめてください。
- 1人あたりの月額か、施設ごとの定額か
- 無料のプランがあるか、ある場合の人数や機能の上限
- 過去のやり取りをどこまでさかのぼれるか
- お知らせや安否確認など、ほかの連絡手段を別に契約する必要があるか
何を別に契約するかで、総額が変わります。人数別の試算は院内連絡ツールの比較に載せています。
ラクパスのチャットでできること
ここからは、この記事を掲載している「ラクパス for Hospital」の機能です。ラクパスを使う場合も、「選ぶときに確かめる7項目」の確認と、院内のルールづくりは病院の側で行う必要があります。
FREEプラン(200名・10部署まで):1対1・グループのチャット、既読・メンション・返信、写真とファイルの送信が使えます。過去のデータを閲覧できるのは90日分です。
画像を送るとき、患者情報などの写り込みをAIが検知して警告します(100%の漏えい防止を保証するものではありません)。管理画面で職員の状態を退職に変えると、その時点でその職員のアクセスは失効します。
BASICプラン以上:過去のデータの閲覧は365日分です。お知らせ機能では、誰が読んだかの記録(既読の見える化)が使えます。
PROプラン以上:管理画面での操作の記録(監査ログ)を閲覧・出力できます。過去のデータの閲覧は5年分です。
運営会社の管理画面には、チャットの本文を見る機能を設けていません。
よくある質問
Q. 法人向けのビジネスチャットなら、使ってよいですか? 製品の種類だけでは決まりません。概説編Q10の7項目を事業者に確かめ、私物スマホを使うなら院内の規程と台帳管理を整えたうえで判断します。
Q. 介護施設もガイドラインの対象ですか? 概説編Q4は「介護事業者が医療情報を情報システムで扱う場合は対象です」としています。介護施設でも、利用者の医療情報をチャットでやり取りするなら、同じ確認が必要です。




